第30~33回
マタギサミットに参加してその1
山形県朝日村大鳥付近の風景。
ブナ林と狩人の会(通称マタギサミット)は、平成2年から中部東北地方に点在する伝統的狩猟集落(いわゆるマタギ集落)で毎年開催されている広域的山村交流会議です。この会は、これらの地域を中心に狩猟文化を研究している田口洋美氏(狩猟文化研究所代表、現:東北芸術工科大学教授)の呼びかけにこたえ、新潟県三面、秋田県阿仁、長野県秋山郷の猟友会員、青年会、婦人会などの有志が集まったことに始まります。会の目的は、狩猟文化(マタギ文化)を基礎に、中山間地域の生活文化の継承と発展をめざし、それぞれの集落が21世紀をどのように生き抜いていくのか、生活者自らが問題解決に向けて模索していくための場になることです。
ところで、マタギとは何かについて、簡単に紹介します。田口氏の著作によると、マタギとは、日本列島の中で主に中部東北地方の豪雪山岳地帯において、ツキノワグマやウサギ、ニホンカモシカ(現在は禁猟)などの哺乳類を狩猟して生業の一部としてきた人々です。彼らは狩猟以外にも、山菜などの採集や漁労、農林業などを季節的に行い、山村での自給自足的な生活を営んできました。かつてはそれらの動物の肉、毛皮、クマの胆嚢(薬用)などが湯治場を中心に需要があったり、また戦争などによっても毛皮需要が高まった時期があったりと、狩猟を専業に行っていた人々も少なくなかった時代もあったそうです。しかし、近年は科学繊維の開発に伴う毛皮価格の暴落や動物愛護思想の台頭などにより、商品化のための狩猟は低迷し、また日本全体の近代化や山村の過疎化のために、その狩猟技術や生活文化が失われつつあります。
マタギサミットには、毎年百数十人が主に東日本から参加していますが、そのうち約半数は狩猟者が占め、残りは地元住民や研究者、マスコミなどとなっています。例年、集合した日の晩にお酒や開催地の郷土料理を囲んでの交流会をして、翌日の午前中に講演会とパネルディスカッションをするのがパターンとなっています。今年は特別に初日の昼から、記念講演会「21世紀、むらはどう生きて行くのか」が開かれ、作家の熊谷達也氏による「マタギたちの未来」、北秋田市職員小松武志氏より「マタギの里、秋田県阿仁の試み」、前述の田口洋美氏より「21世紀、むらはどう生きて行くのか」について講演がありました。そして2日目の午前中の本会では、「狩猟の新しい流れ:若者の声を聞く」というテーマで、財)尾瀬保護財団の橋本幸彦氏より「尾瀬での試み」、そして私、伊吾田から「北海道西興部村の試み」という講演があった後、上の5名に本会実行委員長の工藤朝男氏(朝日村猟友会)を加えた6名のパネラーによるパネルディスカッションと総合討論が開かれました。
次回は、その内容について紹介したいと思います。
(2005年7月1日)
マタギサミットに参加してその2
写真1.記念講演会の会場となった朝日村山村開発センター“すまいる”
初日の記念講演会「21世紀、むらはどう生きて行くのか」では、まず小説家の熊谷達也氏により、「マタギたちの未来」という講演がありました。氏は「邂逅の森」や「相克の森」などマタギを題材とした著作で知られる直木賞作家です。講演では、小説執筆時のエピソードを交えながら、マタギまたは狩猟技術が、野生動物の有害駆除や山岳救助などで社会的貢献をしていることが指摘されました。また、生業として農業や林業などに従事しつつ季節には狩猟採集をして自然と共生するマタギの生活スタイルに、現代人は学ぶべきものがあることを強調しました。そして、マタギ(または彼らを含む山村生活者)の未来のためには、後継者の育成や、地域で生きるための雇用の確保が重要であることが指摘されました。
写真2.記念講演会の様子。朝日村村長の開会挨拶。
初日の記念講演会の最後には、マタギサミットの主催者である東北芸術工科大学教授の田口洋美氏より「21世紀、むらはどう生きて行くのか」という講演がありました。氏は長年、マタギや狩猟に関する民俗学的な研究に従事しており、「越後三面山人記」や「マタギを追う旅」など興味深い著作を発表しています。ちなみに私は、氏とは10年来の親交があり、多大な影響を受けてきました。わが国において狩猟とはともすればマイナーな活動であったとされがちですが、氏によると、実際には農耕地を鳥獣害から防ぐための抑止力としても、歴史的に多くの村落で小規模ながら割合一般的に行われてきたそうです。講演では、そのような狩猟活動を含む山村での伝統的な生活文化がここ数十年の間に失われてきた様子など、氏が狩猟文化の研究を通して垣間見てきた山村の変化について触れ、マタギサミットが始められた当初の想いが振り返られました。それは、狩猟文化についての情報交換の場をつくるというだけでなく、どうしたら“むら”に活気を取り戻せるかということだったそうです。
これは、大変大きな課題ですが、私たちも考えていかなければならないことだと思います。次回も、マタギサミット報告について引き続き書きたいと思います。
(2005年8月1日)
マタギサミットに参加してその3
参加者のみなさん。半分以上はマタギの方です。
はじめに、財団法人尾瀬保護財団の橋本幸彦さんから「群馬県尾瀬での試み」という発表がありました。尾瀬は、日光国立公園の「特別保護地区」で国の特別天然記念物です。尾瀬ヶ原は、高層湿原を主体とする湿原としては我が国最大で(7.6k㎡)、ミズバショウやニッコウキスゲの群生地としても有名な景勝地です。ここにはツキノワグマが生息しており、観光客による目撃が多発されており、平成11年と16年には人身事故も発生しています。いずれも出会い頭の遭遇で、木道を歩いていた観光客がクマに襲われ負傷したそうです。これを受けて、尾瀬保護財団によるパトロールや木道への警鐘の設置などの対策が行われたそうです。
西興部村猟区の取り組みについて発表する私
パネルディスカッションのパネラー
(2005年8月31日)
国際哺乳類学会に参加して
国際哺乳類学会の受付。ちなみにポスターは私がデザインしました。
ポスター発表の会場
私のポスター。役場菊川係長が応援にかけつけて下さいました。
このような学会に定期的に参加することで、最新の研究や社会的な課題に接したり、自分の研究に対する客観的な意見を聞いたりすることができます。今回も自分にとって、いい刺激となりました。今後の活動に新たな気持ちで取り組んでいこうと思います。
(2005年9月15日)