西興部村猟区管理協会

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第30~33回

マタギサミットに参加してその1

山形県朝日村大鳥付近の風景。

山形県朝日村大鳥付近の風景。

先月6月25・26日に山形県朝日村で開催された第16回ブナ林と狩人の会~マタギサミットinあさひ~に出席して、西興部村猟区の取り組みについて発表してきたので、その模様について、今回と次回にわたって報告したいと思います。

ブナ林と狩人の会(通称マタギサミット)は、平成2年から中部東北地方に点在する伝統的狩猟集落(いわゆるマタギ集落)で毎年開催されている広域的山村交流会議です。この会は、これらの地域を中心に狩猟文化を研究している田口洋美氏(狩猟文化研究所代表、現:東北芸術工科大学教授)の呼びかけにこたえ、新潟県三面、秋田県阿仁、長野県秋山郷の猟友会員、青年会、婦人会などの有志が集まったことに始まります。会の目的は、狩猟文化(マタギ文化)を基礎に、中山間地域の生活文化の継承と発展をめざし、それぞれの集落が21世紀をどのように生き抜いていくのか、生活者自らが問題解決に向けて模索していくための場になることです。

ところで、マタギとは何かについて、簡単に紹介します。田口氏の著作によると、マタギとは、日本列島の中で主に中部東北地方の豪雪山岳地帯において、ツキノワグマやウサギ、ニホンカモシカ(現在は禁猟)などの哺乳類を狩猟して生業の一部としてきた人々です。彼らは狩猟以外にも、山菜などの採集や漁労、農林業などを季節的に行い、山村での自給自足的な生活を営んできました。かつてはそれらの動物の肉、毛皮、クマの胆嚢(薬用)などが湯治場を中心に需要があったり、また戦争などによっても毛皮需要が高まった時期があったりと、狩猟を専業に行っていた人々も少なくなかった時代もあったそうです。しかし、近年は科学繊維の開発に伴う毛皮価格の暴落や動物愛護思想の台頭などにより、商品化のための狩猟は低迷し、また日本全体の近代化や山村の過疎化のために、その狩猟技術や生活文化が失われつつあります。

マタギサミットには、毎年百数十人が主に東日本から参加していますが、そのうち約半数は狩猟者が占め、残りは地元住民や研究者、マスコミなどとなっています。例年、集合した日の晩にお酒や開催地の郷土料理を囲んでの交流会をして、翌日の午前中に講演会とパネルディスカッションをするのがパターンとなっています。今年は特別に初日の昼から、記念講演会「21世紀、むらはどう生きて行くのか」が開かれ、作家の熊谷達也氏による「マタギたちの未来」、北秋田市職員小松武志氏より「マタギの里、秋田県阿仁の試み」、前述の田口洋美氏より「21世紀、むらはどう生きて行くのか」について講演がありました。そして2日目の午前中の本会では、「狩猟の新しい流れ:若者の声を聞く」というテーマで、財)尾瀬保護財団の橋本幸彦氏より「尾瀬での試み」、そして私、伊吾田から「北海道西興部村の試み」という講演があった後、上の5名に本会実行委員長の工藤朝男氏(朝日村猟友会)を加えた6名のパネラーによるパネルディスカッションと総合討論が開かれました。

次回は、その内容について紹介したいと思います。
(2005年7月1日) 

マタギサミットに参加してその2

写真1.記念講演会の会場となった朝日村山村開発センター“すまいる”

写真1.記念講演会の会場となった朝日村山村開発センター“すまいる”

先月6月25・26日に山形県朝日村で開催された第16回ブナ林と狩人の会~マタギサミットinあさひ~に出席して、西興部村猟区の取り組みについて発表してきました。前号では、この会の背景になどについて紹介しましたが、今号では今回の会議の内容について報告します。

初日の記念講演会「21世紀、むらはどう生きて行くのか」では、まず小説家の熊谷達也氏により、「マタギたちの未来」という講演がありました。氏は「邂逅の森」や「相克の森」などマタギを題材とした著作で知られる直木賞作家です。講演では、小説執筆時のエピソードを交えながら、マタギまたは狩猟技術が、野生動物の有害駆除や山岳救助などで社会的貢献をしていることが指摘されました。また、生業として農業や林業などに従事しつつ季節には狩猟採集をして自然と共生するマタギの生活スタイルに、現代人は学ぶべきものがあることを強調しました。そして、マタギ(または彼らを含む山村生活者)の未来のためには、後継者の育成や、地域で生きるための雇用の確保が重要であることが指摘されました。

 
写真2.記念講演会の様子。朝日村村長の開会挨拶。

写真2.記念講演会の様子。朝日村村長の開会挨拶。

次に、北秋田市職員小松武志氏より「マタギの里、秋田県阿仁の試み」という講演がありました。氏は、岐阜大学出身のクマの研究者で旧阿仁町(現北秋田市)に就職し、現在市職員としてマタギ特区の実現を模索しています。これは、国の特区制度を利用して、マタギ的な生活文化(=山村で自然と共生する生活文化)について、狩猟や農林業、食品加工などを含めて総合的に保全していこうという構想です。具体的には、クマやカモシカなどの狩猟について、現行の狩猟制度に縛られない伝統的で独自のシステムを導入することなどが盛り込まれています。ただし、現時点では国の基準が厳しいなど、なかなか思うようにいかないそうです。

初日の記念講演会の最後には、マタギサミットの主催者である東北芸術工科大学教授の田口洋美氏より「21世紀、むらはどう生きて行くのか」という講演がありました。氏は長年、マタギや狩猟に関する民俗学的な研究に従事しており、「越後三面山人記」や「マタギを追う旅」など興味深い著作を発表しています。ちなみに私は、氏とは10年来の親交があり、多大な影響を受けてきました。わが国において狩猟とはともすればマイナーな活動であったとされがちですが、氏によると、実際には農耕地を鳥獣害から防ぐための抑止力としても、歴史的に多くの村落で小規模ながら割合一般的に行われてきたそうです。講演では、そのような狩猟活動を含む山村での伝統的な生活文化がここ数十年の間に失われてきた様子など、氏が狩猟文化の研究を通して垣間見てきた山村の変化について触れ、マタギサミットが始められた当初の想いが振り返られました。それは、狩猟文化についての情報交換の場をつくるというだけでなく、どうしたら“むら”に活気を取り戻せるかということだったそうです。

これは、大変大きな課題ですが、私たちも考えていかなければならないことだと思います。次回も、マタギサミット報告について引き続き書きたいと思います。
 (2005年8月1日)

マタギサミットに参加してその3

参加者のみなさん。半分以上はマタギの方です。

参加者のみなさん。半分以上はマタギの方です。

前々回より、6月25・26日に山形県朝日村で開催された第16回ブナ林と狩人の会~マタギサミットinあさひ~について書いています。今回はその最終回として、2日目の本会の模様について紹介します。

はじめに、財団法人尾瀬保護財団の橋本幸彦さんから「群馬県尾瀬での試み」という発表がありました。尾瀬は、日光国立公園の「特別保護地区」で国の特別天然記念物です。尾瀬ヶ原は、高層湿原を主体とする湿原としては我が国最大で(7.6k㎡)、ミズバショウやニッコウキスゲの群生地としても有名な景勝地です。ここにはツキノワグマが生息しており、観光客による目撃が多発されており、平成11年と16年には人身事故も発生しています。いずれも出会い頭の遭遇で、木道を歩いていた観光客がクマに襲われ負傷したそうです。これを受けて、尾瀬保護財団によるパトロールや木道への警鐘の設置などの対策が行われたそうです。

 
西興部村猟区の取り組みについて発表する私

西興部村猟区の取り組みについて発表する私

次に私から、「北海道西興部村の取り組み」として、私たちNPO法人西興部村猟区管理協会が行っているエゾシカのガイド付ハンティングによる有効活用の事例について発表しました。現在、全国的に野生動物による被害問題が激化し、大きな社会問題となっていますが、西興部村猟区の取り組みは、害獣を資源へ転換するという意味で、全国的にも注目されています。
 
パネルディスカッションのパネラー

パネルディスカッションのパネラー

最後に、パネルディスカッションおよび総合討論が行われ、前述の田口洋美さん(狩猟文化研究所代表、現:東北芸術工科大学教授)、作家の熊谷達也さん、北秋田市職員小松武志さん、そして、今回の実行委員長である工藤朝男さん、および橋本幸彦さんと私がパネラーとなりました。ここでは、マタギの生き方に象徴されるような、日本人の昔ながらの野生動物を含む自然との付き合い方を参考に、山村の暮らしを守ることの重要性が確認されました。ちなみに、終わりに、新しい取り組みとしてがんばっている西興部村猟区にも、狩猟で訪れて協力しようと、田口さんが呼びかけて下さいました。
 (2005年8月31日)

国際哺乳類学会に参加して

国際哺乳類学会の受付。ちなみにポスターは私がデザインしました。

国際哺乳類学会の受付。ちなみにポスターは私がデザインしました。

今年の7月31日から8月5日まで札幌コンベンションセンターで開催された国際哺乳類学会に参加して、西興部村猟区の取り組みについて発表してきたので、その様子を紹介します。


 
ポスター発表の会場

ポスター発表の会場

この学会は、哺乳類関係の国際学会としては、世界1の規模の会議で、4年ごとに世界各地で行われています。今回は日本で行われましたが、前回は南アフリカ、前々回はメキシコで開催されました。ちなみに私は前回の南アフリカのときにも参加して、エゾシカの季節移動に関する研究発表をしてきました。今回はこれまでで最大の規模で、世界52カ国から1,124人が参加し、950もの発表がなされました(http://www.imc9.jp/)。内容は、全世界の様々な哺乳類についての、生態学や行動学などの生物学や管理・保全に関する最新の科学的研究でした。発表の形式は様々で、共通のテーマごとに行われるシンポジウムやワークショップ、公開フォーラム、個別の口頭発表やポスター発表などです。シンポジウムとワークショップは、それぞれ53個と41個が行われました。その内容は、例えば大型哺乳類の個体群動態に関するものや、身近なものでは世界遺産に決定した知床の野生動物管理に関するものなど、様々です。ちなみに、私はポスター発表で、西興部村のシカの管理について発表しました。そのタイトルはA LOCAL SIKA DEER MANAGEMENT IN NISHIOKOPPE VILLAGE, HOKKAIDO, JAPAN: Evaluation of the consumptive and non-consumptive valuesというものでした。ポスター発表とは、高さ2m幅1mほどのボードに、各自の研究内容をまとめたポスターを貼って、発表者と視聴者が自由に質疑応答するというもので、会場には各自のポスターがずらりと並び、決められた発表時間に質疑応答が行われます。今回は、各自約24時間ポスターを貼りだし、途中の1時間に発表時間が設定されました。私のポスターにも、日本の研究者だけでなく欧米やアジアの研究者が興味を持ってくれ、何人かと有意義な意見交換ができました。 
私のポスター。役場菊川係長が応援にかけつけて下さいました。

私のポスター。役場菊川係長が応援にかけつけて下さいました。

会期中には何回か懇親会が開かれ、研究者同士の親睦が深められます。またエクスカーションといって、エコツアーなどが企画され、開催国の自然に触れる機会も用意されています。

このような学会に定期的に参加することで、最新の研究や社会的な課題に接したり、自分の研究に対する客観的な意見を聞いたりすることができます。今回も自分にとって、いい刺激となりました。今後の活動に新たな気持ちで取り組んでいこうと思います。
(2005年9月15日)