西興部村猟区管理協会

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第24~29回

ガイドハンティング日記その1

ガイドハンティングでシカを探す

ガイドハンティングでシカを探す

前回までに私の所属するNPO法人西興部村猟区管理協会の活動について紹介してきました。今回はその主な活動であるガイドハンティングの現場についてお話したいと思います。

西興部村猟区は昨年10月25日にオープンしました。開猟期間は北海道による周辺のシカ猟シーズンに合わせて、2月28日までとなっています。狩猟対象は主にエゾシカです。他にカモ類も対象としていますが、西興部村はカモの猟場としてはそれほど資源量が多くないので、カモを目的としてくるお客さんはいません。入猟者の方は1週間前までに申し込みをして、出猟する日を予約します。入猟者1組(1~3名)に対して1名以上のガイド同伴が義務付けられています。また1日の入猟者の数は2組以内に限定されています。これによってハンターはゆったりとした安全な狩猟を楽しむことができます。場合によっては西興部村全域を独り占めすることもできます。これは西興部村猟区の大きなウリのひとつとなっています。これまで延べで約20名のハンターの入猟があり、20頭以上のシカが捕獲されています。入猟者のうち、3分の2は道外からのお客さんです。エゾシカは本州のホンシュウジカと比較して、体の大きさが1.5倍以上も大きいので、内地のハンターにとっては憧れの狩猟対象と考えられているのです。前回もお話しましたが特に西興部村のシカは道内でも体が大きいほうなので、大変喜ばれています。また上記の延べ人数のうち半数近くがリピーターのお客さんです。なかには今シーズンで3回も来てくれている方も数名いるほどです。猟場としての西興部を気に入ってくれているようです。

さて前日までに来村したハンターは私たちガイドと入猟の打ち合わせをして、ホテル森夢に泊まって翌日に備えます。当日朝、ホテルの玄関に集合してガイドの車で出猟です。(続く)
(2005年2月15日) 

ガイドハンティング日記その2

朝靄のなか歩くシカ

朝靄のなか歩くシカ

前回からNPO法人西興部村猟区管理協会の主な活動であるガイドハンティングの現場について紹介しています。今回は車に乗って猟にでるところからお話したいと思います。

秋の非積雪期であれば、日出の30分程前にホテル森夢を出発します。西興部村猟区でのシカ猟は基本的に流し猟という方法で行います。流し猟とは、シカのいそうな場所を車で流して、発見したら車から降りて発砲するという方法です。これは広域をシカの探索ができるので効率的であり、初心者や山歩きになれないハンターにも手軽にシカ猟を楽しむことが出来ます。初猟(今年度は10/25)から11月にかけて雪のない時期には、牧草地に餌を求めて現れるシカを探して、村内の国道や道道、林道を走ります。シカは日中の明るい時間帯に牧草地のような開けた環境に出てくるのを嫌います。これはハンターなどの天敵に警戒する本能的な行動です。したがって、薄暗くなる日没前後に山(森林)から牧草地に下りてきて、夜間に牧草地周辺で採食と反芻を繰り返し、明るくなる日出前後に再び山に帰るという行動パターンを示します。法律上日没から日出の間の夜間の発砲は禁止されているので、牧草地対象の流し猟では、日出後数十分間と日没前数十分間が最も重要な時間帯になってきます。ただし、この時間帯はその日の天候によって若干左右されます。すなわち曇りなど天気が悪い日は日没前と日出後の暗い時間帯が長くなるので、それだけシカが牧草地に出てくる、または居残る時間が長くなるのです。

さてまだ暗いうちにシカを捜しながら車で走ります。探索する地域はそれまでの下見やライトセンサスなどの調査をもとに選びますが、必ず出没しているわけではないのである程度賭けの要素がでてきます。時間を計算して、日の出時間前後にもっとも“出ていそうな”場所に到着するように車の速度を調節します。さあ日の出時間になりました。調度目当ての牧草地に1頭のオスジカがいました。いよいよ発砲ということになります。つづきはまた次回...
(2005年3月1日) 

ガイドハンティング日記その3

札滑地区で仕留められた116kgのオス

札滑地区で仕留められた116kgのオス

前々回から西興部村猟区管理協会の主な活動であるガイドハンティングの現場について紹介しています。前回は日の出時間に猟に出発して、1頭のオスジカを発見したところまでお話しました。

うっすらと朝靄に包まれ、オスジカは道路沿いの牧草地の真ん中に立っています。ハンターとガイドの私たちが乗る車の存在には既に気づいてこちらをじっと見ています。車とシカとの距離が200mほどになると、オスジカはしきりと角を上下に振って、前足を踏み鳴らし始めます。これは、警戒を示す行動です。これ以上接近すると逃げられてしまうかもしれません。今日のハンターの銃はライフルなので200mなら十分狙える距離です。そろそろとスピードを落とし、道路上に停車します。ここでエンジンを止めるとその拍子にシカが逃げてしまうことがあるので、そのままにします。助手席のハンターに静かに車から降りてもらい、そのまま歩いて牧草地の中に少し入って止まります。シカはこちらから目を離さず前足を高く上げながらゆっくりと横に歩き始めました。もういつ走りだすかもしれません。ハンターは銃を袋から取り出し、弾を込めて銃を構え、シカに照準を合わせます。そこでちょうどシカは一度止まりました。その瞬間「ターン」という銃声が静かな朝のとどろき、シカはその場に倒れました。ハンターとガイドは顔を見合わせ、無言でうなづきあいます。さあ、回収です。車の荷台からソリを取り出し、ロープをもってシカに近づいていくと、シカは既に動かなくなっていました。弾は見事首の付け根に当たっています。思ったより大きなシカです。角も立派で、左右に張りだしたバランスのいい形をしています。オスジカをソリに乗せて2人でロープで引っ張ると、重みが肩にずっしりとくい込みます。荷台にシカを積み終わって、ひと休みです。こういうときは満足感から自然と笑顔になります。(続く)
(2005年3月15日) 

ガイドハンティング日記4

採取したシカの血液から分離した血清。栄養状態がよいとこのように高脂血清となる。

採取したシカの血液から分離した血清。栄養状態がよいとこのように高脂血清となる。

前回まで引き続いて、西興部村猟区管理協会の主な活動であるガイドハンティングの現場について紹介しています。今回はその最後の回です。前回は1頭のオスジカを仕留めたところまでお話しました。

獲物をソリで車のところまで引っ張ってきました。大人のオスジカは大きくなると150kg以上になるので、回収も一苦労です。額の汗をぬぐって一休みしてから、シカを車の荷台に載せます。そして村内の鹿肉解体処理施設まで移動します。まず体重や体高、体長、角の長さなどの体のサイズの計測を行ってから、学術的に必要なサンプルを採取します。血液はE型肝炎などの感染症の検索やDNA分析などに使われます。下顎は年齢査定や栄養分析に使われます。エゾシカでは歯列の萌出交換の状態や切歯の年輪によって年齢を知ることができます。また下顎骨の骨髄脂肪により個体の栄養状態を調べることができます。他にも腎臓(栄養分析)などの臓器や胃内容物(食性分析)などを採取します。

その後、シカを足から吊るして解体です。まず皮をはいでから、四肢やロース、ネックなどの各部分に分割します。ここまでで慣れた人がやると1時間もかかりません。捕獲した肉はお客さんのものなので、以上のように分割した各部位は、厚手のビニールに入れてからダンボールに積めます。これは後で宅急便で送ります。

この後、お客さんの要望により、まだシカを捕りたければ再びシカを探して車で走ることになります。昨年度の猟期は今年2月末に終了しましたが、鹿撃ちで来村したお客さんは9割がたはシカの捕獲に成功しています。しかしごく一部のお客さんは残念ながらシカを捕れないこともありました。シカの目撃があればまだいいのですが、天候状況などによって1度もシカの姿を見せられないときもあります。こういうときは、ガイドとして大変辛いものがあります。一方、大きなオスジカなどを獲ってもらったときなどは、ガイド冥利につきます。
(2005年4月1日) 

昨年度の入猟状況

ガイド付ハンティングの様子

ガイド付ハンティングの様子

前回まで引き続いて、西興部村猟区管理協会のガイド付ハンティングについて紹介しました。今回は昨年度の入猟実績について簡単に報告したいと思います。

昨年度は10月25日から2月28日までの開猟期間中、13名のハンターが、延べ22回来村し、延べ44人日入猟しました。13名のうち6名が道内からで、残りは東京・茨城・埼玉など関東圏からの入猟が多かったです。月別の入猟状況は、2月の18名(人日)が最も多く、次いで1月の10名(人日)が多く、12月の3名(人日)が最も少なかったです。これは後半リピーターの入込みが増加したためです。西興部村猟区では1日あたりの入猟者数を制限していて、地域の状況を熟知した地元ガイドの同伴が義務付けられています。このため、捕獲成功率の向上が見込まれ、発砲時の安全管理および残滓処理の適正化が確保されます。したがって入猟者には安全でゆったりとした猟場を提供するとともに、地域住民とハンターの軋轢を軽減することができます。猟区開設の初年度ということもあり、猟期中盤の12月ごろに入猟者の入込みが伸び悩みましたが、1月から2月にかけて道外のリピーターを中心とした入猟が持ち返しました。これは上記のような当猟区の魅力が浸透していったためと考えられます。

一方、入猟による捕獲状況についてですが、オス27頭メス11頭の合計38頭のエゾシカの捕獲に成功しました。オスの最大体重は118.0kg、メスの最大体重は101.0kgと、道内でも比較的大きな体サイズであるといえます。また捕獲成功率(1回の入猟あたりに入猟者1人がシカの捕獲に成功した割合)は86(%)と、非常に高い捕獲効率が実現しました。これらは西興部村猟区の魅力です。

入猟者数、捕獲数ともにまだまだ少ないですが、初年度としてはまずまずの滑り出しだったといえるでしょう。昨年度の反省を元に今秋のシーズンもより充実した猟区づくりに努め、ハンターの来村を増加させ、地域経済に貢献していきたいと思います。
(2005年4月15日) 

猟区管理協会の活動(初心者ハンターの教育)

野生動物とどのように付き合っていくかということは歴史的にみても人類にとっての大きな課題のひとつでした。江戸時代以前にも野獣や野鳥から田畑を守るために、村落の猟師が一役買っていたとも言われています。近年になって、シカやクマ、イノシシなどの個体数増加または人間の生活圏への侵入により、野生動物による農林業または人身被害が全国的な社会問題となっています。しかし一方では狩猟者の人口減少と高齢化が加速化しています。このような“狩猟離れ”が、野生動物管理の実戦力を低下させ、野生動物被害を拡大させる一因にもなっているといえるでしょう。同時に、長年にわたって培われてきたわが国固有の貴重な狩猟技術も失われつつあります。そこで西興部村猟区では、狩猟技術を蓄積し、若手ハンターを養成するための狩猟者教育の一環として、新人ハンターまたは狩猟や野生動物に興味のある方を対象に、今年度より新人ハンターセミナーを開催しています。ここでは、数日間の課程の中で、狩猟獣の生物学や保護管理学、および捕獲・解体・料理の方法などの狩猟技術を総合的に学ぶことができます。特に、初心者ハンターが実際に地元ハンティングガイドと出猟する実践的な出猟実習も行い、参加者による2頭のエゾシカの捕獲に成功しました。もちろん趣味としての狩猟の楽しみと醍醐味を伝えることにも努めています。昨年度は10月、11月、12月、2月に合計4回のセミナーを実施しています。
(2005年5月1日) 

春の食べ物

林道に落ちていたシカが食べ残したフキの葉っぱ

林道に落ちていたシカが食べ残したフキの葉っぱ

西興部村にもようやく新緑の季節がやってきました。今年は例年に比べて春の訪れが遅いようでした。4月と5月の平均気温は3.1℃、7.3℃と平年(それぞれ3.9℃、9.8℃)と比較すると5月で特に低い値となっています。それでは5月末には暖かい日が続き、暑いくらいの日もありました。このため、ここ数日になって広葉樹の葉が展開しはじめ、山はやっと春らしい風景になってきました。この時期、シカはどんなものを食べているのでしょうか?

4月後半には融雪が進み、それまで雪で一面真っ白だった牧草地が現れ、少しずつ牧草の新芽が伸びてきます。この時期、山の斜面や沢の中では野生の草本がまだほとんど芽吹いていません。それまで雪で隠れていたササはもちろん利用可能になりますが、それよりも牧草を食べたほうが、栄養のある食物を効率的に食べることができます。このため、夕方から明け方にかけてシカたちは牧草地に出没します。なかにはまだ明るい時間にのんきに牧草を食べに山から出てくるシカもいます。この時期は、シカがひんぱんに道路脇にも出てくるので、交通事故にも要注意です。

そして5月になって山の草本の芽吹が進むと、それを利用するようになり、牧草への依存度は低くなります。シカは山ではフキやイラクサなどたくさんの種類の“山菜”を食べます。写真は5月28日に林道に落ちていたシカによるフキの食べ痕です。シカは伸び始めのやわらかいフキの茎が大好きです。しかし葉っぱは食べずに落としていきます。人間もフキの葉っぱは食べませんが、シカも苦味がきついのか好きでないようです。しかし、秋から冬にかけてフキが枯れると、なぜか葉っぱも食べるようになります。これは冬には他に食べ物が少なくなるためと、フキの葉は枯れると苦味成分などが変化して食べやすくなるのかもしれません。
(2005年6月1日) 

有害駆除について

樹皮食い被害をだすエゾシカ

樹皮食い被害をだすエゾシカ

先週(6月9日)、村内のエゾシカの有害駆除に出動しました。夕方、日没時間の1時間前ぐらいから巡視をして、3頭のシカを目撃しましたが、そのうちの1頭のメスの成獣に向かって発砲しました。シカはその場に倒れました。回収してみると、ミルクが出ていました。これは出産した証拠です。今はちょうどエゾシカの出産時期なので、そのシカは子ジカを生んだ直後だったのでしょう。この時期母親がいないと子ジカは生きていけません。子ジカには可愛そうなことをしましたが、シカの有害駆除は地域にとって必要なことです。シカの有害駆除は、主に農業被害を防止するために、地域のハンターによってボランティアで行われます。北海道東部では、シカによる被害が年間数十億円もあるので、春から秋にかけての非狩猟期間に実施されており、つまりは1年中シカは捕獲されているのです。
西興部村の場合は、主に牧草被害を防ぐのが目的です。シカがいる限り被害を完全になくすことはできませんが、個体数の増加をある程度抑えることで、被害を軽減することができます。シカは天敵のエゾオオカミがいないことと、暖冬のために放っておくとどんどん増えてしまいます。したがって、人間がその個体数を管理する必要があります。シカと共存していくためには、シカを殺すことも大事なことなのです。
(2005年6月15日)